民法改正1(司法試験向け)
1 はじめに
読者のみなさんもご存知のように、民法(債権法)改正が平成29年に成立しました。そして同改正は、一部(定型約款・公証人による保証意思の確認手続き)を除いて平成32年(2020年4月1日)から施行されます。
ですから、数年後の司法試験・予備試験を見据えている受験生は改正民法をおさえておく必要があります。そこで、私自身のアウトプットも兼ねて、司法試験等で出題されそうな箇所をメインに改正民法の紹介・解説をしようと思います。
基本的には、改正民法の解説書等を読む前提としておさえておきたい全体像を広く薄くまとめていこうと思っています。
2 全体像
まず法務省が出している改正概要のURLを貼っておきます。改正の基本理念は①変化する社会経済への対応、②分かりやすい民法(つまりは判例法理等の明文化)にする点にあるとされています。
http://www.moj.go.jp/content/001242837.pdf
そして改正のある分野は以下のとおりです。司法試験との関係でフォローしておきたい箇所を適当にピックアップしました。私のブログでのまとめも以下の順番でまとめていこうと考えています。
【民法総則】
1 法律行為
・意思能力規定
・錯誤法の整理
2 代理
・復代理の規定削除
・代理権濫用の場合の判例法理の明文化
3 消滅時効
・消滅時効期間の統一と単純化
・時効中断・停止の概念を「完成猶予」と「更新」に整理
【債権総則】
4 法定利率
・法定利率は3%からスタートし3年毎に変動する
5 債務不履行
・履行不能、填補賠償や代償請求の明文化
6 契約の解除
・契約解除は契約からの離脱を認める制度として解除の要件を改正。債務者の帰責事由を解除の要件としないなど。なお、現行法では債務者の帰責事由ある場合を解除の問題とし、帰責事由ない場合を危険負担の問題としていたため、同改正は危険負担制度の改正にも影響する。
7 危険負担
・改正後の解除との関係より、危険負担制度を反対債務が当然に消滅することを認める制度から債務者に反対給付の履行拒絶を認める制度へと大きく変更した。
・債権者主義の削除。
8 債権者代位
・転用型の債権者代位のうち登記・登録請求権を被保全債権とする債権者代位を明文化
9 詐害行為取消
・(破産法上の否認権との関係を理由に)相当の対価を得てした財産処分行為、担保提供や代物弁済について特則を定める。
・詐害行為取消の効果を絶対効と規定
10 多数当事者の債権債務
・連帯債務者間に生じた事由の効力の整理(履行の請求が絶対効から相対効になるなど)。
・求償関係の整理
11 保証
・連帯保証人について生じた事由の効力(履行の請求・免除の効力が主債務者に及ばないこととなる)
12 債権譲渡
・譲渡制限の意思表示の物権的効力を否定して譲渡制限のある債権も有効に譲渡できるとする(ただし預貯金債権は除く)。
・異議をとどめない承諾による抗弁の切断を認めない、将来債権の譲渡について明文化
13 弁済
・弁済の要件・効果の改正、法定代位者の相互関係を改正
14 相殺・更改
・ 受働債権の差押前に取得した債権を自働債権とする相殺の適否について判例法理の明文化など
【契約法】
15 契約の成立
・到達主義に統一(隔地者間の契約での承諾に関して発信主義を定めた規定を削除)
16 約款(割愛)
17 売買・贈与
・売主の担保責任が(通説の)法定責任説から契約責任説(担保責任を物・権利に関する契約不適合を理由とする債務不履行責任と考える)となる
18 賃貸借
・契約終了ルールの明文化
・敷金に関する判例法理の明文化
・不法占有者に対する妨害排除請求権明文化
・賃貸人たる地位の移転に関する判例の明文化
・賃貸借期間の上限が20年から50年へと引き上げられる。
19 役務提供契約
・請負人の担保責任について売主の担保責任と同様に債務不履行責任と考え規定を整理
20 要物契約
・使用貸借・寄託は諾成契約になる。
・消費貸借は要物契約と(書面でする)諾成契約の2つが並列的に規定される。
21 組合(割愛)
次回は「法律行為」の改正について詳細を見ていきましょう。
刑事事実認定(司法修習:刑事裁判)
1 はじめに
刑事裁判の導入修習でやった事実認定をざっとまとめます。司法試験受験生向けではありませんが、予備試験の刑事実務と範囲が重なるところもあるので時間のあるときにぜひ一読ください。*定義等は司法研修所の見解に依拠してまとめています。
参考記事「民事事実認定」
2 事実認定の構造
民事と同様に、直接証拠による立証である「直接証拠型」と、間接事実による立証である「間接事実型」の2つのパターンがあります。
①直接証拠から直接、要証事実である要証事実を証明するパターン
②間接証拠から間接事実を認定し、さらに間接事実から要証事実を推認するパターン
*間接事実は間接証拠(間接事実を証明する証拠)から認定する必要があります。
(1)直接証拠型
直接証拠は要証事実を推論過程を経ずに直接証明するために用いられます。もっとも、当該証拠に信用できなければ要証事実を証明することはできません。
したがって、直接証拠とは、当該証拠の信用性が肯定されれば要証事実を直接認めることができる証拠と定義付けられます。
*ある証拠が直接証拠なるかは要証事実との関係で当該証拠の内容を検討する必要があります。
直接証拠による証明においては、多くの場合、当該直接証拠の信用性の有無が重要なポイントとなります。例えば、目撃者の証言という直接証拠があり、それにより犯人性を証明しようとする場合、当該証言が十分に信用することができれば、被告人の犯人性を認定することができますから、この場合は当該証言の信用性を支える補助事実に審理の焦点が当たることが想定されます。
*供述の信用性については後述のとおり。
(2)間接事実型
間接事実とは、要証事実の存否を間接的に(推論の過程を経て)推認させる事実です。
間接事実は間接証拠から認定されるわけですが、間接事実型では以下のような点が争点となることが想定されます。
・そもそも間接証拠から間接事実を認定することができるか(間接事実自体の存否)?
・間接事実がどのように、どの程度要証事実を推認させるか(間接事実の意味合い・重み)?
・間接事実を組み合わせることで最終的に要証事実を認定することができるか(間接事実の総合評価)?
*間接事実の意味合い・重み
・「意味合い」とは、当該間接事実が要証事実をどのように推認させるか、言い換えると、当該間接事実からどのような論理則・経験則に基づき要証事実の推認に至るかという認定プロセスという意味です。
・「重み」とは、当該間接事実が要証事実をどの程度推認させるか、言い換えると、要証事実を推認させる力の強弱の程度という意味です。
ここでは当該間接事実の存在を前提としてもなお反対仮説(要証事実の不存在)が成り立ち得る可能性の程度を考慮することになります。例えば、「犯行現場のドアに被告人の指紋が付着していた」という間接事実の「重み」を検討する際は、当該指紋は被告人が犯行とは別の機会に犯行現場を訪れた際に付着した可能性があるならば、当該間接事実の存在を前提としてもなお被告人が犯人ではないという反対仮説が成り立ち、その結果、推認力は弱い(もしくはない)ということになります。
3 供述証拠の信用性評価
人の供述は、知覚・記憶・表現・叙述の各過程で誤りが入り込んだり、虚偽の可能性があります。ですから、各過程における誤りや虚偽の可能性を慎重に吟味する必要があります。
供述の信用性を評価する際には、以下の点に着目するといいでしょう。
①他の証拠による裏付け・符号
→特に客観性の高い証拠及びその証拠から合理的に推認できる事実と符号している場合は当該供述の信用性を高める事情となります。
→当該供述どおりであれば裏付けがあるはずなのにそれがない場合は、その裏付けの不存在は当該供述の信用性を減殺する事情となります。例えば、窃盗事件で押収された被害品から被告人の指紋が検出されない事情などが考えられます。
②知覚・記憶・表現の条件
→知覚・記憶・表現の各過程での客観面(知覚ならば明るさ・距離・視力など、記憶ならば観察対象が記憶しやすい事柄か・他の事実と混同しにくい事柄か、表現までに井奥が変容するような体験がなかったかなど)の検討
③供述過程
→供述が変遷している場合はその信用性に疑いが生じます。もっとも、供述の変遷に合理的な理由があれば変遷後の供述を信用できますから、変遷の合理性を検討する必要があります。
④供述者の利害関係
→事案ごとに、事件や被告人または供述内容との関係から嘘を述べる動機があるか否かを検討することになります。
⑤供述内容
→現実に体験していない事柄を供述すれば、供述内容が不自然で具体性に欠けたり、供述内容の前後で矛盾することがあります。
⑥供述態度
→❶証言時の証人の様子という外形的事情と❷自己に不利な事情も率直に供述しているという供述内容に着目することになります。
4 被告人供述の信用性評価
刑訴法上、被告人は無罪と推定させる立場にあり、証拠により合理的な疑いを超える認定ができて初めて有罪となります。ですから、被告人の言い分が信用できないとしてもそのことから何かが証明できるわけではありません。したがって、被告人の言い分が信用できないから有罪と論じることはあり得ません。
また自白は偏重されやすい危険があり、他方で虚偽である可能性もあります。したがって、自白の信用性が争われている場合の事実認定では、まず自白以外の証拠により要証事実の存否を判断し、その後に自白の信用性を判断するという手順を踏むことになります。
民事事実認定(司法修習:民事裁判)
1 はじめに
民事裁判の導入修習でやった事実認定をざっとまとめます。司法試験受験生向けではありませんが、範囲が重なるところもあるので時間のあるときにぜひ一読ください。*定義等は司法研修所の見解に依拠してまとめています。
参考記事:「刑事事実認定」
2 事実認定の対象と構造
(1)事実認定の対象
民事訴訟における事実認定の対象は争いのある主要事実です。
ですから、争いのある主要事実をまず最初に把握する必要があります。そのため、「①訴訟物→②要件事実の整理→要件事実に該当する具体的事実(主要事実)についての相手方の認否を確認する」というプロセスを経て、争いのある主要事実を把握することになります。
(2)事実認定の構造
事実認定のパターンは大きく分けて2つあります。
①直接証拠(要証事実である主要事実を直接に証明できる内容を持つ証拠)から直接、要証事実である主要事実を認定するパターン
②間接証拠から間接事実を認定し、さらに間接事実から要証事実である主要事実を推認するパターン
*間接事実は間接証拠(間接事実を証明する証拠)から認定する必要があります。また直接証拠から主要事実を認定したり(①パターン)、間接証拠から間接事実を認定する(②パターン)際には、補助事実(証拠の証明力を判断する際に使用される事実)を用いて、証拠の証拠力(証明力、証拠価値)を判断することになります。
3 証拠
(1)書証
ア 書証とは
そもそも書証とは、裁判官が文書を閲読して読み取った記載内容を証拠資料とするための証拠調べのことをいいます。
そして、この「文書」には①処分証書と②報告文書があります。
①処分証書とは、意思表示その他の法律行為が文書によってなされた場合のその文書です。例えば、契約書、解除通知書や遺言書などが挙げられます。
*処分証書の定義は暗記しましょう。
②報告文書とは、処分証書以外の文書で事実に関する作成者の認識、判断、感想等が記載された文書です。例えば、領収書、商業帳簿や日記などが挙げられます。
イ 形式的証拠能力
形式的証拠能力とは、文書の記載内容が作成者の思想を表現したものであることをいいます。形式的証拠能力が認められるためには、①挙証者(証拠申出人)の主張する作成者がその意思に基づき文書を作成したこと(成立の真正)と②作成者の思想が表現されていることが必要です。
*文書の作成者とはその文書に記載された思想の主体を意味します。ですから作成名義人以外の者が作成者となるケースがあります。これに関連して署名代理により作成された文書の作成者は本人と代理人のいずれかという論点がありますが、今回は割愛します。
前述のとおり、形式的証拠能力が認められるためには、①成立の真正が認められる必要があります。相手方が文書の成立の真正を否認した場合は、挙証者(証拠申出人)はそれを立証しなければなりません(民訴228Ⅰ)。
その際に文書の成立の真正についての立証の負担を軽減する推定規定が民訴228条2項(公文書)と民訴228条4項(私文書)です。私文書については「署名」または「押印」で推定されることになりますが、「押印」の際にはいわゆる二段の推定を用いることができます。*「署名」の際は二段の推定の問題とならないことに注意してください。
ウ 実質的証拠能力
実質的証拠能力とは、文書の記載内容が裁判官の心証形成の資料となって立証命題である事実の存否についての裁判官の判断に作用して影響を与える力をいいます。
前述のとおり「文書」には①処分証書と②報告文書があります。
まず①処分証書については形式的証拠能力が認められれば、特段の事情の有無を検討することなく作成者がその文書に記載されている意思表示その他の法律行為を行ったと認定していいと考えられています。処分証書は類型的信用文書と取り扱うわけです。
つぎに②報告文書は処分証書と異なり、それによって法律行為がされたわけではないので、形式的証拠能力が認められたとしても、その記載内容をそのまま信用していいことにはなりません。報告文書は記載内容が真実であるかどうか(実質的証拠能力の有無)を個別・具体的に検討する必要があります。つまり、処分証書と異なり報告文書は一概に類型的信用文書に当たるor当たらないとはいえないのです。
私文書であっても以下の文書は通常、信用性を有すると考えられています。
・紛争が顕在化する前に作成された文書(ex.取引中にやり取りされた見積書)
・紛争当事者と利害関係のない者が作成した文書(ex.第三者間の手紙)
・事実があった時点に近い時期に作成された文書(ex.作業日報)
・記載行為が習慣化されている文書(ex.カルテ)
・ 事故に不利益な内容を記載した文書(ex.領収書)
(2)人証
人証はその信用性を判断する必要があります。その際の判断の視点・手法としては以下のものが考えられます。そのなかでも特に客観的な④動かし難い事実との整合性を中心に供述の信用性を判断していくべきです。
①供述者の利害関係
→供述者の主観的な誠実さを判断するために
②供述過程
→どのような知覚・記憶・表現・叙述の過程を経たかという意味
③供述態度、供述内容の合理性・一貫性・具体性
→供述態度は個人差があるので注意
④動かし難い事実との整合性
→客観的な当事者間に争いのない事実や成立の真正に争いのない書証から確実に認定できる事実を基礎にして当該供述が当該事実と整合するかという意味
*動かし難い事実の抽出
❶「争いのない事実」(自白が成立した事実)、❷「当事者双方の供述等が一致する事実」、❸「成立の真正が認められ信用性が高い書証に記載された事実」(銀行の預金通帳など)、❹「当事者が自認する自己に不利益な事実」の4つが動かし難い事実として考えられます。
4 判断枠組み
不確かさが入り込む余地のある間接事実から要証事実を推認するより、直接証拠から要証事実を認定する方が誤りの少ない事実認定となるため、直接証拠を中心に据えて事実認定をすることが合理的です。
事実認定の判断枠組みをまとめると以下のようになります。
①直接証拠である類型信用文書があり、その成立に争いがない場合
→処分証書以外であれば当該書証の記載内容どおりの事実を認定すべきでない「特段の事情」の有無を検討。処分証書であれば「特段の事情」の有無は問題とならないので、意思表示の効力の発生を障害する事情(虚偽表示など)の有無を検討。
②直接証拠である類型信用文書があり、その成立に争いがある場合
→挙証者が書証の成立の真正について立証することになる。民訴228条4項の推定規定を用いる場合はその検討。
③直接証拠である類型信用文書はないが、直接証拠である供述証拠がある場合
→直接証拠である供述証拠の信用性(実質的証拠能力)を中心に検討。
④直接証拠である類型信用文書も直接証拠である供述証拠もない場合
→間接事実の積み上げによる。
刑事実務(勾留の認定)
1 はじめに
導入修習で勾留の認定についてやったので、僕自身の復習も兼ねて勾留の認定についてまとめたいと思います。
2 勾留の要件
勾留の要件は、大きく分けて、実体的要件と手続的要件があります。今回は認定についてですから、手続的要件は割愛します。
実体法要件は3つです(被疑者の場合は207条1項本文により60条1項を準用)。
・罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある
・60条1項各号のいずれかに該当すること(①住居不定、②罪証隠滅のおそれ、③逃亡のおそれ)
・勾留の必要性があること
3 判断要素
相当の嫌疑と勾留の必要性は逮捕と被りますから、今回は、60条1項各号該当性の認定についてまとめておきます。
①住居不定
住居不定とは、住所や居住を有しないことをいいます。簡易旅館や飯場に住み、短期間で転々としているときはこれにあたるとされています。そして「住居が明らかでないとき」(64Ⅲ)、「住居が分からないとき」(89⑥)は、いずれも住居不定に当たると考えられています。
②罪証隠滅のおそれ
罪証隠滅のおそれとは、証拠に対する不正な働きかかけによって、判断を誤らせたり、捜査や公判を紛糾させたりするおそれがあることをいいます。そしてその判断は、「Ⅰ 罪証隠滅の対象→Ⅱ 罪証隠滅の態様→ Ⅲ 罪証隠滅の客観的可能性→Ⅳ 罪証隠滅の主観的可能性」という要素順に検討します。そもそも、「Ⅰ 罪証隠滅の対象」がなければ、その段階で罪証隠滅のおそれはないということになります。
Ⅰ 罪証隠滅の対象
対象とは、「証拠」ではなく、「事実」です。ここで大切なのは、証明されるべき「事実」とその「証拠」を分けて考えることです。まずは罪証隠滅の対象となり得る具体的な事実を特定しましょう。
*「事実」とは当該公訴事実(構成要件該当事実+違法性を基礎or阻却する原因となる事実+責任阻却原因事実)です。情状に関する事実が含まれるかについては争いがありますが割愛します。
例えば、犯人性が問題となっているような事案では、「犯人と被疑者との同一性」という事実が罪証隠滅の対象となり得るわけです。そして、「犯人と被疑者との同一性」を証明する証拠としてどのような証拠があるかを考えます。そして考えられる証拠に不正な働きかけがされるおそれがあるかを以下、検討することになります。
したがって、「事実」が思考の出発点になります。ぼくが具体的な事案で罪証隠滅のおそれを検討したとき、このような思考ができずに、どのような証拠があるかを最初に考えていました。
Ⅱ 罪証隠滅の態様
上で考えた「証拠」に対して、どのような方法で罪証隠滅のための働きかけが行われるかという意味です。既存の証拠を隠滅する場合と新たな証拠を作出する場合が考えられます。
例えば、共犯者・事件の関係者(証人となる得る者等)と通謀したり、圧力を加えて供述を変えさせたりするケースなどです。
Ⅲ 罪証隠滅の客観的可能性及び実効性
罪証隠滅が客観的に可能でなければ、罪証隠滅のおそれがあるとはいえません。例えば、証拠物が捜査機関に押収されていれば、これを毀棄・隠匿することは不可能です。このような場合は罪証隠滅が客観的に不可能であり、罪証隠滅のおそれはありません。
Ⅳ 罪証隠滅の主観的可能性
被疑者・被告人が主観的に具体的な罪証隠滅行為にでる可能性がなければ、罪証隠滅のおそれはありません。
この主観的可能性を推認させるものとして、被告人(被疑者)の供述態度が挙げられます。すなわち、当初から一貫して犯行を認めて詳細な自白をし、反省している場合は罪証隠滅の意図はないと考えられるからです。
③逃亡のおそれ
捜査機関及び裁判所にとって被告人(被疑者)が所在不明となるおそれを意味します。その判断要素として、生活の不安定のために所在不明となる可能性(勤務先・勤務状況・家族の有無等)、被疑事実の重大性、前科・余罪の有無などが挙げられます。
民法短答対策(弁済による代位②)
前回は、弁済による代位の効果(501条)について解説しました。501条の理解を確実なものにするために、今回は短答の過去問を使って演習をしようと思います。
Q. 900万円の主たる債務について二人の連帯保証人があり、そのうちの一人が物上保証人を兼ねている場合、連帯保証債務のみを負担している者が全額弁済をすると、この者が法定代位する債権額は600万円である。×(23-22-イ)
【解説】
「主たる債務について二人の連帯保証人があり、そのうちの一人が物上保証人を兼ねている」ということですから、連帯保証人の1人が物上保証人でもあるケース、すなわち、二重資格者が登場するケースです。二重資格者はこれまで解説したように、1人としてカウントします。したがって、以下のようにカウントすることになります。
A:連帯保証人 → 1人
B:連帯保証人 + 物上保証人 → 1人
ですから、501条5号本文を適用して、債権額900万円を人数2人の頭割りにします。
よって、1人あたりの負担金額は「900万円÷2=450万円」となりますから、全額弁済をした保証人は450万円の代位をすることができます。
Q. 1000万円の主たる債務に対する連帯保証人と物上保証人が一人ずついたところ、連帯保証人が債権者に弁済をする前に、物上保証の目的不動産が三人の共同相続人により相続され共有となった場合、その後連帯保証人が全額弁済をすると、この者が法定代位する債権額の合計は750万円である。◯(23-22-ウ)
【解説】
このケースでは、物上保証の目的物が3人の共同相続人に相続され共有となっています。ですから、物上保証人は「1人→3人」とカウントすることになります。
A:連帯保証人 → 1人
(Bを相続)物上保証人B1・B2・B3 → 3人
保証人と物上保証人間は501条5号で規定されているように、その数に応じて頭割りをしますから、1人あたりの負担金額は「1000万円÷4=250万円」となります。
よって、保証人は全額弁済をすると、750万円(1000万円ー負担分250万円)の代位をすることができます。
Q. AのBに対する1200万円の債権について、保証人C、物上保証人D(担保物の価格900万円)、物上保証人E(担保物の価格300万円)が存在する場合、C、D及びEの間における弁済による代位の割合は、2対3対1になる。◯(28-20-エ)
【解説】
このケースでは、保証人と物上保証人が登場しますから、501条5号により処理します。まず、本文より、保証人と物上保証人の数に応じた頭割りですから、1人あたりの負担金額は「1200万円÷3=400万円」になります。
もっとも、同号ただし書より物上保証人間では、各自の担保物の価格割合についてのみ代位することになります。このケースでは、物上保証人DとEの担保物は「D:E = 900万円:300万円」ですから、2人の担保物の価格割合は「D:E = 3:1」となります。
したがって、1200万円から保証人Cの代位額400万円を引いた、800万円の代位ができます。Dには800万円の3/4にあたる600万円、Eには800万円の1/4にあたる200万円について代位できることになります。
よって、それぞれの負担金額は「C:D:E = 400万円:600万円:200万円」ですから、代位割合は「C:D:E = 2:3:1」となります。
民法短答対策(弁済による代位①)
今回は、弁済による代位の効果について解説します。
1 501条(弁済による代位の効果)の存在意義
弁済による代位には、法定代位(500条)と任意代位(499条)があります。その代位の効果が定められているのが、501条です。
なぜ、501条のような規定が存在するかというと、代位の循環を断ち切るためです。具体的な事例でどういうことか考えてみましょう。
例えば、法定代位者となる可能性のある保証人や物上保証人等が複数人いて、そのうちの1人が弁済した場合を考えてみましょう。具体的には、債務者YのXに対する債務を保証するために保証人Zと物上保証人Wがいたとします。このケースで保証人Zが弁済したとすると、保証人Zは債務者Yに対する求償権を取得し、これを確保するために債権者Xに代位することができます(500)。それにより、保証人Zは債権者Xの有する担保(物上保証人Wが負担する抵当権)を実行することができます。抵当権の実行により、物上保証人Wが弁済した場合、今度は物上保証人Wは債権者Xに代位することができ、債権者Xの有する担保である保証人Zが負担する保証債務の履行を請求することができます。
このように代位の循環が起こってしまいます。この循環を断ち切るためのルールが501条各号というわけです。
2 501条の規定
・保証人と第三取得者
保証人と第三取得者(担保目的物を債務者から取得した者)との関係は、保証人は弁済をしたら全額を第三取得者に対し代位できるが、第三取得者は弁済をしても保証人に対して一切代位をできません(1号、2号)。これは第三取得者は債務者と同様の地位に立つからです。
・第三取得者間
債務者の担保目的物が複数あり、それぞれに第三取得者がある場合、第三取得者間ではそれぞれが取得した不動産の価格に応じて代位します(3号)。
・物上保証人
物上保証人が複数あり、その一方が弁済した場合、物上保証人間でその担保に供した不動産の価格に応じて代位します(4号)。
・保証人と物上保証人
保証人と物上保証人がいて、その一方が弁済した場合、頭割りで人数に応じた平等の割合で代位します(5号)。
*二重資格者の処理
保証人かつ物上保証人である者(二重資格者)がいた場合、判例は二重資格者を1人としてカウントし、かつ、頭割とするとしています(最判昭61・11・27)。二重資格者の処理についてはこの判例の処理を理解しておけば十分です。
3 保証人と物上保証人のケースの具体例(二重資格者ケースも含む)
それでは、ここで保証人と物上保証人が登場するケース5号の処理を具体的に整理しておきます。下の処理と条文とを読み比べてみてください。
・保証人と物上保証人(5号)の整理:債務額3,000万円とする。
物上保証人1人、保証人2人のケース(5号本文)
→ 頭割ゆえ各自負担分は1,000万円
→ 誰かが全額弁済すれば他の者に1,000万円ずつ代位
物上保証人2人、保証人1人のケース(5号ただし書)
→ 頭割ゆえ負担は保証人1,000万円、物上保証人2,000万円
→ 物上保証人間は各不動産の価格により2,000万円を配分
例えば、物上保証人AとBの不動産の価格割合が「4:1」の場合、物上保証人Aが2,000万円の4/5である1,600万円を負担し、物上保証人Bは1/5である400万円を負担することになる。
・二重資格者の整理:債務総額2,000万円
X:保証人+物上保証人
Y:物上保証人
→ 二重資格者は1人としてカウントするためXを1人とカウント
→ 頭割ゆえ各自負担分は1,000万円
→ 誰かが全額弁済すれば他の者に1,000万円ずつ代位
民法短答対策(共同抵当③)
前回までの2つの記事で、共同抵当の際の配当方法について解説しました。
今回は、実際に司法試験で出題された短答問題を用いて、前回までのおさらいをしたいと思います。
【問題】
(22-13)
AのBに対する1000万円の債権を担保するために甲土地及び乙土地に第一順位の抵当権が設定された場合に関する次の1から4までの各記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものを2個選びなさい。なお、各記述において、競売の結果として債権者に配当することが可能な金額は、甲土地及び乙土地のいずれについてもそれぞれ1000万円であり、また、各債権者が有する債権の利息及び損害金は考慮しないものとする。
1. 甲土地及び乙土地をBが所有し、甲土地にCが1000万円の債権を担保するために第二順位の抵当権の設定を受けている場合、甲土地及び乙土地が同時に競売されたときは、Cは1000万円の配当を受けることができる。×
2. 甲土地及び乙土地をBが所有し、甲土地にCが1000万円の債権を担保するために第二順位の抵当権の設定を、乙土地にDが1000万円の債権を担保するために第二順位の抵当権の設定をそれぞれ受けている場合、甲土地のみが競売されたときは、その後の乙土地の競売の際に、C及びDはそれぞれ500万円の配当を受けることができる。○
3. 甲土地をBが、乙土地をEが所有し、甲土地にCが1000万円の債権を担保するために第二順位の抵当権の設定を、乙土地にDが1000万円の債権を担保するために第二順位の抵当権の設定をそれぞれ受けている場合、甲土地のみが競売されたときは、その後の乙土地の競売の際に、Cは配当を受けることができず、Dは1000万円の配当を受けることができる。○
4. 甲土地をBが、乙土地をEが所有し、甲土地にCが1000万円の債権を担保するために第二順位の抵当権の設定を、乙土地にDが1000万円の債権を担保するために第二順位の抵当権の設定をそれぞれ受けている場合、乙土地のみが競売されたときは、その後の甲土地の競売の際に、Cは1000万円の配当を受けることができ、Dは配当を受けることができない。×
【解説】
1. このケースは、同時配当ですから、392条1項が適用されます。具体的には、甲と乙の価格はともに1,000万円ですから、「甲:乙=1:1」となります。ですから、Aは甲から1/2、乙から1/2の配当を受けます。つまり、甲から500万円、乙から500万円の配当を受けることになります。
2. このケースは、甲が先に競売にかけられたという異時配当の場合です。まずAは甲から1,000万円全額の配当を受けます(392Ⅱ前)。そして異時配当の場合は、後順位者の配当を392条2項後段で処理します。具体的には、上の1のケースと同じ結果をめざします。本件では仮に、同時配当だったらら、C・Dはそれぞれ500万円ずつ配当を受けることができたわけですから、甲の第二順位抵当権者Cは500万円の限度で、乙に対するAの抵当権を代位することができます。したがって、乙の競売の際にC・Dはそれぞれ500万円の配当を受けることができます。
3. このケースは甲土地が債務者B所有、乙土地が物上保証人E所有、すなわち、物上保証人が登場するケースです。本件では、債務者B所有の甲が先に競売されています。当然、Aは甲から1,000万円全額の配当を受けることができます。
ここで問題は、後順位者Cが上の2のように乙に対するAの抵当権を代位行使できるかです。前回までに解説したように、物上保証人より債務者所有の不動産から先に弁済されるべきですから、後順位者Cは物上保証人E所有の乙競売の際に、392条2項後段に基づき代位することはできません。
その結果、Cは配当を受けることができず、Dは1,000万円の配当を受けることができます。
4. このケースは、物上保証人E所有の乙が先に競売された場合です。まず当然ですが、Aは乙から1,000万円全額の弁済を受けることができます。
そして、これまでの解説どおり物上保証人Eが弁済による代位により、甲に対するAの抵当権を取得します。ここで、問題は後順位者Dの存在です。前回の解説どおり、物上保証人所有の不動産を目的とする後順位抵当権者は物上保証人が弁済による代位により取得する抵当権を「あたかも物上代位するように」行使することができますから、後順位者Dは物上保証人Eが取得した抵当権を行使することができます。
その結果、甲の競売の際に、Dは1,000万円の配当を受けることができますが、Cは配当を受けられません。
以上で、この問題の解説を終わります。共同抵当の配当方法は、ややこしく、後回しになりがちな分野ではありますが、一度理解してしまえば、数字が変わっても間違えることは少ないと思います。一連の解説を読んで、自分で数字を変えながらどのような結論になるかを考えてみてください。理解につながると思います!