民法改正1(司法試験向け)
1 はじめに
読者のみなさんもご存知のように、民法(債権法)改正が平成29年に成立しました。そして同改正は、一部(定型約款・公証人による保証意思の確認手続き)を除いて平成32年(2020年4月1日)から施行されます。
ですから、数年後の司法試験・予備試験を見据えている受験生は改正民法をおさえておく必要があります。そこで、私自身のアウトプットも兼ねて、司法試験等で出題されそうな箇所をメインに改正民法の紹介・解説をしようと思います。
基本的には、改正民法の解説書等を読む前提としておさえておきたい全体像を広く薄くまとめていこうと思っています。
2 全体像
まず法務省が出している改正概要のURLを貼っておきます。改正の基本理念は①変化する社会経済への対応、②分かりやすい民法(つまりは判例法理等の明文化)にする点にあるとされています。
http://www.moj.go.jp/content/001242837.pdf
そして改正のある分野は以下のとおりです。司法試験との関係でフォローしておきたい箇所を適当にピックアップしました。私のブログでのまとめも以下の順番でまとめていこうと考えています。
【民法総則】
1 法律行為
・意思能力規定
・錯誤法の整理
2 代理
・復代理の規定削除
・代理権濫用の場合の判例法理の明文化
3 消滅時効
・消滅時効期間の統一と単純化
・時効中断・停止の概念を「完成猶予」と「更新」に整理
【債権総則】
4 法定利率
・法定利率は3%からスタートし3年毎に変動する
5 債務不履行
・履行不能、填補賠償や代償請求の明文化
6 契約の解除
・契約解除は契約からの離脱を認める制度として解除の要件を改正。債務者の帰責事由を解除の要件としないなど。なお、現行法では債務者の帰責事由ある場合を解除の問題とし、帰責事由ない場合を危険負担の問題としていたため、同改正は危険負担制度の改正にも影響する。
7 危険負担
・改正後の解除との関係より、危険負担制度を反対債務が当然に消滅することを認める制度から債務者に反対給付の履行拒絶を認める制度へと大きく変更した。
・債権者主義の削除。
8 債権者代位
・転用型の債権者代位のうち登記・登録請求権を被保全債権とする債権者代位を明文化
9 詐害行為取消
・(破産法上の否認権との関係を理由に)相当の対価を得てした財産処分行為、担保提供や代物弁済について特則を定める。
・詐害行為取消の効果を絶対効と規定
10 多数当事者の債権債務
・連帯債務者間に生じた事由の効力の整理(履行の請求が絶対効から相対効になるなど)。
・求償関係の整理
11 保証
・連帯保証人について生じた事由の効力(履行の請求・免除の効力が主債務者に及ばないこととなる)
12 債権譲渡
・譲渡制限の意思表示の物権的効力を否定して譲渡制限のある債権も有効に譲渡できるとする(ただし預貯金債権は除く)。
・異議をとどめない承諾による抗弁の切断を認めない、将来債権の譲渡について明文化
13 弁済
・弁済の要件・効果の改正、法定代位者の相互関係を改正
14 相殺・更改
・ 受働債権の差押前に取得した債権を自働債権とする相殺の適否について判例法理の明文化など
【契約法】
15 契約の成立
・到達主義に統一(隔地者間の契約での承諾に関して発信主義を定めた規定を削除)
16 約款(割愛)
17 売買・贈与
・売主の担保責任が(通説の)法定責任説から契約責任説(担保責任を物・権利に関する契約不適合を理由とする債務不履行責任と考える)となる
18 賃貸借
・契約終了ルールの明文化
・敷金に関する判例法理の明文化
・不法占有者に対する妨害排除請求権明文化
・賃貸人たる地位の移転に関する判例の明文化
・賃貸借期間の上限が20年から50年へと引き上げられる。
19 役務提供契約
・請負人の担保責任について売主の担保責任と同様に債務不履行責任と考え規定を整理
20 要物契約
・使用貸借・寄託は諾成契約になる。
・消費貸借は要物契約と(書面でする)諾成契約の2つが並列的に規定される。
21 組合(割愛)
次回は「法律行為」の改正について詳細を見ていきましょう。