民事事実認定(司法修習:民事裁判)

1 はじめに

  民事裁判の導入修習でやった事実認定をざっとまとめます。司法試験受験生向けではありませんが、範囲が重なるところもあるので時間のあるときにぜひ一読ください。*定義等は司法研修所の見解に依拠してまとめています。

 

参考記事:「刑事事実認定」 

www.obayashi-nao.work

 

 

2 事実認定の対象と構造

(1)事実認定の対象

 民事訴訟における事実認定の対象は争いのある主要事実です。

 ですから、争いのある主要事実をまず最初に把握する必要があります。そのため、「①訴訟物→②要件事実の整理→要件事実に該当する具体的事実(主要事実)についての相手方の認否を確認する」というプロセスを経て、争いのある主要事実を把握することになります。

 

(2)事実認定の構造

 事実認定のパターンは大きく分けて2つあります。

 ①直接証拠(要証事実である主要事実を直接に証明できる内容を持つ証拠)から直接、要証事実である主要事実を認定するパターン

 

 ②間接証拠から間接事実を認定し、さらに間接事実から要証事実である主要事実を推認するパターン

 *間接事実は間接証拠(間接事実を証明する証拠)から認定する必要があります。また直接証拠から主要事実を認定したり(①パターン)、間接証拠から間接事実を認定する(②パターン)際には、補助事実(証拠の証明力を判断する際に使用される事実)を用いて、証拠の証拠力(証明力、証拠価値)を判断することになります。

 

3 証拠

(1)書証

ア 書証とは

 そもそも書証とは、裁判官が文書を閲読して読み取った記載内容を証拠資料とするための証拠調べのことをいいます。

 

 そして、この「文書」には①処分証書と②報告文書があります。

 ①処分証書とは、意思表示その他の法律行為が文書によってなされた場合のその文書です。例えば、契約書、解除通知書や遺言書などが挙げられます。

 *処分証書の定義は暗記しましょう。

 ②報告文書とは、処分証書以外の文書で事実に関する作成者の認識、判断、感想等が記載された文書です。例えば、領収書、商業帳簿や日記などが挙げられます。

 

イ 形式的証拠能力

 形式的証拠能力とは、文書の記載内容が作成者の思想を表現したものであることをいいます。形式的証拠能力が認められるためには、①挙証者(証拠申出人)の主張する作成者がその意思に基づき文書を作成したこと(成立の真正)と②作成者の思想が表現されていることが必要です。

 *文書の作成者とはその文書に記載された思想の主体を意味します。ですから作成名義人以外の者が作成者となるケースがあります。これに関連して署名代理により作成された文書の作成者は本人と代理人のいずれかという論点がありますが、今回は割愛します。

 

 前述のとおり、形式的証拠能力が認められるためには、①成立の真正が認められる必要があります。相手方が文書の成立の真正を否認した場合は、挙証者(証拠申出人)はそれを立証しなければなりません(民訴228Ⅰ)。

 その際に文書の成立の真正についての立証の負担を軽減する推定規定が民訴228条2項(公文書)と民訴228条4項(私文書)です。私文書については「署名」または「押印」で推定されることになりますが、「押印」の際にはいわゆる二段の推定を用いることができます。*「署名」の際は二段の推定の問題とならないことに注意してください。

 

ウ 実質的証拠能力

 実質的証拠能力とは、文書の記載内容が裁判官の心証形成の資料となって立証命題である事実の存否についての裁判官の判断に作用して影響を与える力をいいます。 

 

 前述のとおり「文書」には①処分証書と②報告文書があります。

 まず①処分証書については形式的証拠能力が認められれば、特段の事情の有無を検討することなく作成者がその文書に記載されている意思表示その他の法律行為を行ったと認定していいと考えられています。処分証書は類型的信用文書と取り扱うわけです。

 

 

 つぎに②報告文書は処分証書と異なり、それによって法律行為がされたわけではないので、形式的証拠能力が認められたとしても、その記載内容をそのまま信用していいことにはなりません。報告文書は記載内容が真実であるかどうか(実質的証拠能力の有無)を個別・具体的に検討する必要があります。つまり、処分証書と異なり報告文書は一概に類型的信用文書に当たるor当たらないとはいえないのです。

 

 私文書であっても以下の文書は通常、信用性を有すると考えられています。

・紛争が顕在化する前に作成された文書(ex.取引中にやり取りされた見積書)

・紛争当事者と利害関係のない者が作成した文書(ex.第三者間の手紙)

・事実があった時点に近い時期に作成された文書(ex.作業日報)

・記載行為が習慣化されている文書(ex.カルテ)

・ 事故に不利益な内容を記載した文書(ex.領収書)

 

(2)人証

 人証はその信用性を判断する必要があります。その際の判断の視点・手法としては以下のものが考えられます。そのなかでも特に客観的な④動かし難い事実との整合性を中心に供述の信用性を判断していくべきです。

 

①供述者の利害関係

→供述者の主観的な誠実さを判断するために

②供述過程

→どのような知覚・記憶・表現・叙述の過程を経たかという意味

③供述態度、供述内容の合理性・一貫性・具体性

→供述態度は個人差があるので注意

④動かし難い事実との整合性 

→客観的な当事者間に争いのない事実や成立の真正に争いのない書証から確実に認定できる事実を基礎にして当該供述が当該事実と整合するかという意味

 

 *動かし難い事実の抽出

 ❶「争いのない事実」(自白が成立した事実)、❷「当事者双方の供述等が一致する事実」、❸「成立の真正が認められ信用性が高い書証に記載された事実」(銀行の預金通帳など)、❹「当事者が自認する自己に不利益な事実」の4つが動かし難い事実として考えられます。

 

4 判断枠組み

 不確かさが入り込む余地のある間接事実から要証事実を推認するより、直接証拠から要証事実を認定する方が誤りの少ない事実認定となるため、直接証拠を中心に据えて事実認定をすることが合理的です。

 

 事実認定の判断枠組みをまとめると以下のようになります。

①直接証拠である類型信用文書があり、その成立に争いがない場合

→処分証書以外であれば当該書証の記載内容どおりの事実を認定すべきでない「特段の事情」の有無を検討。処分証書であれば「特段の事情」の有無は問題とならないので、意思表示の効力の発生を障害する事情(虚偽表示など)の有無を検討。

②直接証拠である類型信用文書があり、その成立に争いがある場合

→挙証者が書証の成立の真正について立証することになる。民訴228条4項の推定規定を用いる場合はその検討。

③直接証拠である類型信用文書はないが、直接証拠である供述証拠がある場合

→直接証拠である供述証拠の信用性(実質的証拠能力)を中心に検討。

④直接証拠である類型信用文書も直接証拠である供述証拠もない場合

→間接事実の積み上げによる。