刑事実務(勾留の認定)

1 はじめに

 導入修習で勾留の認定についてやったので、僕自身の復習も兼ねて勾留の認定についてまとめたいと思います。

 

2 勾留の要件

 勾留の要件は、大きく分けて、実体的要件と手続的要件があります。今回は認定についてですから、手続的要件は割愛します。

 

  実体法要件は3つです(被疑者の場合は207条1項本文により60条1項を準用)。

・罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある

・60条1項各号のいずれかに該当すること(①住居不定、②罪証隠滅のおそれ、③逃亡のおそれ)

・勾留の必要性があること

 

3 判断要素

 相当の嫌疑と勾留の必要性は逮捕と被りますから、今回は、60条1項各号該当性の認定についてまとめておきます。

 

①住居不定

 住居不定とは、住所や居住を有しないことをいいます。簡易旅館や飯場に住み、短期間で転々としているときはこれにあたるとされています。そして「住居が明らかでないとき」(64Ⅲ)、「住居が分からないとき」(89⑥)は、いずれも住居不定に当たると考えられています。 

 

②罪証隠滅のおそれ

 罪証隠滅のおそれとは、証拠に対する不正な働きかかけによって、判断を誤らせたり、捜査や公判を紛糾させたりするおそれがあることをいいます。そしてその判断は、「Ⅰ 罪証隠滅の対象→Ⅱ 罪証隠滅の態様→ Ⅲ 罪証隠滅の客観的可能性→Ⅳ 罪証隠滅の主観的可能性」という要素順に検討します。そもそも、「Ⅰ 罪証隠滅の対象」がなければ、その段階で罪証隠滅のおそれはないということになります。

 

Ⅰ 罪証隠滅の対象

 対象とは、「証拠」ではなく、「事実」です。ここで大切なのは、証明されるべき「事実」とその「証拠」を分けて考えることです。まずは罪証隠滅の対象となり得る具体的な事実を特定しましょう。 

 *「事実」とは当該公訴事実(構成要件該当事実+違法性を基礎or阻却する原因となる事実+責任阻却原因事実)です。情状に関する事実が含まれるかについては争いがありますが割愛します。

 

  例えば、犯人性が問題となっているような事案では、「犯人と被疑者との同一性」という事実が罪証隠滅の対象となり得るわけです。そして、「犯人と被疑者との同一性」を証明する証拠としてどのような証拠があるかを考えます。そして考えられる証拠に不正な働きかけがされるおそれがあるかを以下、検討することになります。

 したがって、「事実」が思考の出発点になります。ぼくが具体的な事案で罪証隠滅のおそれを検討したとき、このような思考ができずに、どのような証拠があるかを最初に考えていました。

 

Ⅱ 罪証隠滅の態様

 上で考えた「証拠」に対して、どのような方法で罪証隠滅のための働きかけが行われるかという意味です。既存の証拠を隠滅する場合新たな証拠を作出する場合が考えられます。

 例えば、共犯者・事件の関係者(証人となる得る者等)と通謀したり、圧力を加えて供述を変えさせたりするケースなどです。

 

Ⅲ 罪証隠滅の客観的可能性及び実効性

 罪証隠滅が客観的に可能でなければ、罪証隠滅のおそれがあるとはいえません。例えば、証拠物が捜査機関に押収されていれば、これを毀棄・隠匿することは不可能です。このような場合は罪証隠滅が客観的に不可能であり、罪証隠滅のおそれはありません。

 

Ⅳ 罪証隠滅の主観的可能性

 被疑者・被告人が主観的に具体的な罪証隠滅行為にでる可能性がなければ、罪証隠滅のおそれはありません。

 この主観的可能性を推認させるものとして、被告人(被疑者)の供述態度が挙げられます。すなわち、当初から一貫して犯行を認めて詳細な自白をし、反省している場合は罪証隠滅の意図はないと考えられるからです。

 

③逃亡のおそれ

  捜査機関及び裁判所にとって被告人(被疑者)が所在不明となるおそれを意味します。その判断要素として、生活の不安定のために所在不明となる可能性(勤務先・勤務状況・家族の有無等)、被疑事実の重大性前科・余罪の有無などが挙げられます。