民法改正6(債務不履行)

1 概要

①履行不能(明文化 / 填補賠償請求)

②損害賠償(填補賠償 / 帰責事由)

 ・填補賠償請求

 ・履行遅滞後の帰責事由

③代償請求

④受領遅滞

 

*改正があった全ての箇所に言及しているわけではありませんのでご注意ください。

 

2 内容

①履行不能(明文化 / 填補賠償請求)

 まず改正により債務の履行不能が明文化されました(改正412条の2第1項)。

 そして債務の原始的履行不能の場合であっても填補賠償請求権が成立することが明文化された(改正412条の2第2項)。通説によると、契約締結時に債務の履行が不能(原始的不能)である場合は履行請求権は成立しないと考えられています。そこで、履行請求権の代わりに填補賠償請求権が成立するか問題となります。伝統的通説は、填補賠償請求権が有効な履行請求権の存在を前提として成立する権利と理解するため、このケースでの填補賠償請求権の成立を否定します。

 しかし、この見解に対しては、履行不能は履行請求権の成立を否定するに過ぎず損賠賠償請求権の成立まで否定することはない、また債権者が履行不能であるリスクを引き受けた以上は契約を有効とすべきという批判がされていました。

 このような経緯を踏まえて、改正法は、原始的に履行不能な場合でも契約を有効とする余地を認め、改正412条の2第2項により「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない」と定めます。これにより、原始的履行不能の場合であっても、当事者の合意次第では契約が有効に成立し、填補損害賠償を請求することができることになります。

 

②損害賠償(填補賠償 / 帰責事由)

・填補賠償請求

 改正415条2項により填補賠償請求権の成立要件が定められました。この改正により、未だ履行請求権が消滅していない段階で填補請求権が成立することが認められることになります。履行請求権と填補賠償請求権の両者を有する債権者はいずれを行使するかについて選択権を有すると解釈されます。

 

・履行遅滞後の帰責事由

 債務の履行遅滞後に債務の履行不能が生じた場合には、債務者の帰責事由が擬制されるとする判例法理が明文化(413条の2第1項)されました。 

 

③代償請求

  債務の履行不能が生じたのと同一の原因に基づいて債務者が債権の目的物に代わる権利利益を取得していた場合に債権者が当該権利利益の償還を請求(代償請求)できるかという点について現民法では明文規定がないため、問題となっていました。

 改正により、代償請求権が規定(改正422条の2)されたことで、債権者は代償請求をすることができることになります。

 もっとも、債務者の帰責事由が代償請求の要件となるかについては、現民法のもとで争いとなっていました。債務者の帰責事由が要件となるかについては改正によっても明文化されなかったため、この論点は改正法後も解釈に委ねられることになります。

 

④受領遅滞

 改正により、受領遅滞の効果が明文化されました。改正413条1項では債務者の注意義務の軽減、同条2項では債権者の増加費用の負担、改正413条の2第2項では危険の移転が明文化されました。また改正により危険負担は履行拒絶を認める制度になったことに関連して、受領遅滞の場合に債権者へ給付危険が移転すると規定されました(改正567条2項)。

*危険負担の改正については後日詳しく触れます。