民法短答対策(共同抵当②)

 前回は共同抵当の配当方法を定めた392条の解説をしました。

 

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  前回は抵当目的物の甲・乙がともに債務者Y所有のケースでした。このケースが基本なのですが、今回は「甲:債務者Y所有、乙:物上保証人W所有」というケースの処理を解説します。

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 前回までとの大きな違いは当たり前ですが、物上保証人Wの存在です。つまり、物上保証人所有の乙から配当されることは第三者弁済に当たるということです。第三者弁済をすれば、当然物上保証人Wは甲に対するXの抵当権を代位行使することができます。(法定代位、500条)。ですから、甲の後順位者Z1の392条2項後段に基づく代位物上保証人Wの法定代位とがぶつかってしまうわけです。

 

 このケースでは、結論からいうと、

 ①共同抵当の割当(392Ⅰ)は行わず、債務者所有の不動産から配当されることになります。②そして物上保証人の代位が、債務者所有の不動産の後順位抵当権者(上のケースだとZ1)に優先します。

 

 ①割当が行われないというのは、392条1項が適用されないということです。ですから、同時配当のときであっても、債務者所有の甲から先に配当を受けるということになります。また甲が先に競売されたとしても、後順位者Z1は392条2項後段に基づき乙へ代位することはできません。なぜならば、債務者ではない物上保証人の不動産より先に債務者の不動産を弁済に当てるべきと考えるからです。

 

 ②問題は、物上保証人W所有の乙が先に競売されたときです。この場合、物上保証人W1は弁済による代位により抵当権者Xの甲不動産に対する抵当権を取得します。したがって、物上保証人の代位が、債務者所有の不動産の後順位抵当権者に優先します。

 

 

 しかし、上のケースでは物上保証人W所有の乙にはZ2の抵当権も設定されています。

 ですから、物上保証人Wと後順位者Z2との関係も考える必要があります。

 仮に物上保証人Wが後順位者Z2に優先するとします。そうすると、乙の抵当権が実行されて、乙が失われた結果、物上保証人Wは上で解説したとおりXの抵当権を取得し、さらにZ2の抵当権の負担を免れるという2つの利益を同時に享受することになります。

 この処理では、物上保証人Wが大きな利益を得る一方で、後順位者Z2は甲・乙のいずれからも弁済を受けることができません。

 そこで、判例は、「あたかも物上代位するように」後順位者Z2はWが代位により取得したXの甲に対する抵当権を行使することができるとしています(最判昭53・7・4 百選Ⅰ 91)。つまり、後順位者Z2が物上保証人Wに優先します。

 

 したがって、後順位者Z2はXの甲に対する抵当権を行使することができます。その結果、Xは乙から2,000万円、甲から1,000万円の優先弁済を受け、そして物上保証人W1が取得する甲に対するXの抵当権(2,000万円)をZ2は行使し、1,500万円の配当を受けます。最後にWは甲の残余500万円の配当を受けることになります。

 

 

<債務者所有の不動産・物上保証人所有の不動産に共同抵当が設定されているケースの配当方法についてまとめ>

・同時配当

→ 392条1項は適用されず、債務者所有の不動産から先に配当を受ける。

 

・異時配当(債務者所有の不動産が先に競売)

→ 債務者所有の不動産の後順位者は392条2項後段に基づき物上保証人所有の不動産に対する抵当権を代位行使するとはできない。

 

・異時配当(物上保証人所有の不動産が先に競売)

→  物上保証人の代位が、債務者所有の不動産の後順位抵当権者に優先する。

→  しかし、物上保証人所有の不動産の後順位者は物上保証人が取得した抵当権を(あたかも物上代位するように)行使することができる。