民法短答対策(共同抵当①)

 Bexaからリリース予定の民法短答の講座準備のために、いま民法短答の過去問を解き直しています。そのなかでも、後回しになりがちな、共同抵当における配当方法についてざっとまとめたいと思います。

 

 共同抵当の配当方法について規定しているのが、392条です。

 

392条(共同抵当における代価の配当)

Ⅰ 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合

 において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価格に応じ

 て、その債権を按分する。

Ⅱ 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合

 において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代

 価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位

 の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の

 代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当

 権を行使することができる。

 

 共同抵当の配当は、①同時配当(392Ⅰ)と②異時配当(392Ⅱ後段)の2つがあります。今日は物上保証人が存在するケースは考えずに、シンプルに、債務者Y所有の不動産甲・乙にXの抵当権が設定されているケースを考えてみましょう。

 

【事例】 

 Xの被担保債権が3,000万円で、甲・乙不動産に抵当権が設定されています。競売した場合の甲・乙不動産の価格はそれぞれ4,000万円と2,000万円とする。甲にはのZ1(被担保債権2,000万円)、乙にはZ2(被担保債権1,500)の抵当権が設定されているとします。

 

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・同時配当

 このケースで、Xが甲・乙の抵当権を同時に実行したとします。その場合の配当はどのようにされるのでしょうか。

 

 同時配当の場合は、392条1項を条文通り適用するだけです。「同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価格に応じて、その債権を按分する。」と定めれています。

 本件で、甲:乙=2:1です。Xは、3,000万円の優先弁済を受けますが、2/3を甲から、1/3を乙から配当を受けることになります。すなわち、甲から2,000万円、乙から1,000万円の配当を受けます。

 そしてZ1は甲の残2,000万円、Z2は乙の残1,000万円の配当を受けることになります。

 

まとめ(同時配当)

甲:3,000万円、Z1:2,000万円、Z2:1,000万円

 

・異時配当

 ここで、異時配当(Xが甲または乙の抵当権を先に実行するケース)の処理を考えます。

 仮に392条2項後段がないとします。その場合に甲の抵当権を先に実行するとします。392条2項前段には「ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。」と規定されています。

 ですから、Xは甲から3,000万円全額の配当を受けることができます。しかし、同時配当の際に甲から2,000万円の配当を受けることができたZ1は1,000万円しか配当を受けられません(甲の残配当金は1,000万円のみ)。他方で、同時配当の際に乙から1,000万円しか配当を受けることができなかったZ2は1,500万円全額の配当を受けることができます。

 

 次に乙の抵当権を先に実行するとします。この場合、Xは乙から2,000万円、甲から1,000万円の優先弁済を受けます。そしてZ1は甲から2,000万円全額の配当、Z2は乙から配当を一切受けることができないと結果になります。

 

まとめると以下のようになります。

同時配当      甲:3,000万円、Z1:2,000万円、Z2:1,000万円

異時配当(甲が先) 甲:3,000万円、Z1:1,000万円、Z2:1,500万円

異時配当(乙が先) 甲:3,000万円、Z1:2,000万円、Z2:0万円

 

 このように異時配当では、どちらの抵当権が先に実行されるかは後順位者に大きな影響を与えます。このような後順位者間の不公平を解消するために定められたのが、392条2項後段です。

 

 異時配当のとき「次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定(同時配当のケース)に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。」と定めれています。

 ですから、異時配当のときも同時配当と同じ結果になるとように調整するのです。上のケースだと、異時配当のときも「同時配当 甲:3,000万円、Z1:2,000万円、Z2:1,000万円」をめざすわけです。

 

 甲先のケースだと、Z1は、同時配当のときに受けることができた1,000万円につき、Xの乙不動産への抵当権を代位行使することができます。その結果、Z1は同時配当のときと同じ、総額2,000万円の配当を受けることができます。

 乙先のケースだと、Z2は同時配当のときに受けることができた1,000万円につき、Xの甲不動産への抵当権を代位行使することができます。その結果、Z2は同時配当のときと同じ、総額1,000万円の配当を受けることができます。

 

 以上をまとめると、「共同抵当の配当はまず同時配当(392Ⅰ)のケースの処理を行う。さらに、異時配当の処理が問われれば、同時配当のときと同じ配当結果になるように処理を行う(392Ⅱ後段)」ということです。

 

 一度、処理方法を理解してしまえば、金額が変わっても容易に結論を出せるようになります。ですから、この記事で説明した一連の流れと条文を読み解きながらトライしてください!