民法改正8(危険負担)

1 概要

① 危険負担制度を履行拒絶を認める制度と考えるようになった

②現行法の債権者主義(現534条、535条)を削除

③危険移転に関する規定を新設(567条) 

*すべての改正部分に言及しているわけではないので注意ください。

 

2 内容

① 危険負担制度を履行拒絶を認める制度と考えるようになった

 前回解説したように、現行法において、危険負担制度と契約解除は、債務者の帰責事由の有無により区別されていましたが、改正法では債務者の帰責事由がなくとも債務不履行解除をすることができます。

 

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  このように、債務者の帰責事由がなくとも債務不履行解除をすることができる改正法の下では、両者の適用範囲が重複していまします。そこで、改正法において、危険負担制度は「反対債務が当然に消滅することを認める制度」から「債権者に反対債務の履行拒絶を認める制度」へと大きく変更されることになりました。

 言い換えると、改正法においては、履行拒絶権(536条1項)と解除権(542条1項)を併存させる立場を採用しており、債権者はいずれかを行使することができます。

 

 両者の違いとしては、解除されると契約に基づいて生じた債務が確定的に消滅するのに対して、履行拒絶権が行使された場合には債権者が負担している反対給付を履行する債務が消滅せず存続したままであるという点です。

 

 

②現行法の債権者主義(現534条、535条)を削除

 債権者主義を定めた現534条、535条に対しては立法論として大きな問題があると批判されてきました。債権者主義によると、特定物を目的とする契約が締結されると原則として契約締結時に所有権が債権者に移転するため、それ以後に目的物が滅失・損傷する危険は所有者である債権者が負担することになります。しかし、契約締結後に目的物がまだ売主の手元にある段階で滅失したケースのように、所有権が移転していることを理由に危険を債権者に負担させるのは合理的ではありません。むしろ、目的物を現実に支配し、目的物の滅失・損傷をより容易に回避することができる立場にある者に危険を負担させる方が合理的です。

 

 このような議論を踏まえて、改正により債権者主義を定めた規定は削除され、その結果、改正法では536条(債務者主義)がすべての双務契約に適用されることとなります。 

 

③危険移転に関する規定を新設(567条) 

 上記のように、改正法においては債務者主義が原則ですが、一定の時点以後は債権者が危険を負担すべきです。上記のように、目的物を現実に支配し、目的物の滅失・損傷をより容易に回避することができる立場にある者に危険を負担させることが合理的だからです。

 そこで、目的物を引渡した時点(同1項)または買主が受領拒絶もしくは受領することができなかった時点(同2項)以後は、債権者が危険を負担する旨の規定が新設されました。同条は、現行法の下で、債権者主義の適用範囲を制限しようとする議論を反映したものです。

 

 

民法改正7(解除)

1 概要

①解除の理解

②解除の方式

 *改正があった全ての箇所に言及しているわけではありませんのでご注意ください。

 

2 内容

①解除の理解:債務者の帰責事由が要件ではなくなった!

 現行法は、現541条から543条において、当事者の債務不履行を理由に契約の解除が認められる要件を定めています。通説によると、債務者の帰責事由が債務不履行解除の要件となります。これは、契約の解除を債務不履行の効果の1つと位置付けられており、債務不履行による損害賠償請求と同じ要件が契約の解除にも妥当すると考えられているからです。

 

 しかし、債務者の帰責事由を要件とする見解に対しては、「契約上の利益の実現をめざす損害賠償とは異なり、契約の解除は当事者に契約から離脱することを認めるものであるから、両者は債権者の救済手段としての性格を異にする。債務が履行されず債権者が契約上の利益を手にすることができない場合は、債務者の帰責事由の有無にかかわりなく、契約を解除して契約から離脱することを債権者に認めるべきである。」という批判がありました。

 

 そこで、この議論をベースに改正法では、「契約の解除は契約からの離脱を認める制度であるため、損害賠償とは異なった要件が妥当する」という理解に立って、解除の要件に関する規定が置かれています。

 具体的には、改正法は債務者の帰責事由を契約の解除の要件とはしない立場を採用しています。現543条ただし書「ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。」に対応する定めが改正法では置かれていません。改543条は債務者の帰責事由が契約の解除の要件ではないことを前提とした定めです。

 

②解除の方式:催告による解除催告によらない解除を区別して規定!

・催告による解除(改541条)

 改541条は債務不履行に直面した債権者が債務の履行を催告して契約の解除をする場面の規定です。

 催告による解除の場合、契約をした目的の達成の可否ではなく、債務不履行が軽微であるか否かが解除が認められるかの基準になります。具体的には、同条ただし書において、催告期間が経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微である場合には契約の解除が認められないと新しい規定が置かれました。

 

・催告によらない解除(改542条)

 改542条1項は、債権者が催告をすることなく契約の解除をするできる場面の規定です。

 催告によらない解除の場合、契約をした目的の達成の可否が解除が認められるかの基準となります。

 具体的には、同項各号で契約をした目的を達成できないと考えられる場合が規定されており、それに該当すれば催告によらない解除が認めらることになります。

 たとえば、債務の全部の履行が不能である場合(同1号)というのは、契約をした目的を達成できない典型例として規定されています。また、債務者が履行を拒絶する意思を明確に示した(2号)ならば、もはや契約をした目的を達成することができません。

 

 

 

民法改正6(債務不履行)

1 概要

①履行不能(明文化 / 填補賠償請求)

②損害賠償(填補賠償 / 帰責事由)

 ・填補賠償請求

 ・履行遅滞後の帰責事由

③代償請求

④受領遅滞

 

*改正があった全ての箇所に言及しているわけではありませんのでご注意ください。

 

2 内容

①履行不能(明文化 / 填補賠償請求)

 まず改正により債務の履行不能が明文化されました(改正412条の2第1項)。

 そして債務の原始的履行不能の場合であっても填補賠償請求権が成立することが明文化された(改正412条の2第2項)。通説によると、契約締結時に債務の履行が不能(原始的不能)である場合は履行請求権は成立しないと考えられています。そこで、履行請求権の代わりに填補賠償請求権が成立するか問題となります。伝統的通説は、填補賠償請求権が有効な履行請求権の存在を前提として成立する権利と理解するため、このケースでの填補賠償請求権の成立を否定します。

 しかし、この見解に対しては、履行不能は履行請求権の成立を否定するに過ぎず損賠賠償請求権の成立まで否定することはない、また債権者が履行不能であるリスクを引き受けた以上は契約を有効とすべきという批判がされていました。

 このような経緯を踏まえて、改正法は、原始的に履行不能な場合でも契約を有効とする余地を認め、改正412条の2第2項により「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない」と定めます。これにより、原始的履行不能の場合であっても、当事者の合意次第では契約が有効に成立し、填補損害賠償を請求することができることになります。

 

②損害賠償(填補賠償 / 帰責事由)

・填補賠償請求

 改正415条2項により填補賠償請求権の成立要件が定められました。この改正により、未だ履行請求権が消滅していない段階で填補請求権が成立することが認められることになります。履行請求権と填補賠償請求権の両者を有する債権者はいずれを行使するかについて選択権を有すると解釈されます。

 

・履行遅滞後の帰責事由

 債務の履行遅滞後に債務の履行不能が生じた場合には、債務者の帰責事由が擬制されるとする判例法理が明文化(413条の2第1項)されました。 

 

③代償請求

  債務の履行不能が生じたのと同一の原因に基づいて債務者が債権の目的物に代わる権利利益を取得していた場合に債権者が当該権利利益の償還を請求(代償請求)できるかという点について現民法では明文規定がないため、問題となっていました。

 改正により、代償請求権が規定(改正422条の2)されたことで、債権者は代償請求をすることができることになります。

 もっとも、債務者の帰責事由が代償請求の要件となるかについては、現民法のもとで争いとなっていました。債務者の帰責事由が要件となるかについては改正によっても明文化されなかったため、この論点は改正法後も解釈に委ねられることになります。

 

④受領遅滞

 改正により、受領遅滞の効果が明文化されました。改正413条1項では債務者の注意義務の軽減、同条2項では債権者の増加費用の負担、改正413条の2第2項では危険の移転が明文化されました。また改正により危険負担は履行拒絶を認める制度になったことに関連して、受領遅滞の場合に債権者へ給付危険が移転すると規定されました(改正567条2項)。

*危険負担の改正については後日詳しく触れます。

民法改正5(法定利率)

 現行法では、法定利率は年5%で固定されています(現404条)。しかし、改正により、法定利率は年3%となり、3年毎に変動する変動利率となります(改404条)。つまり、改正後の3年間の法定利率は年3%で、その後は3年毎に変動することになります。

 

 

 

 

民法改正4(消滅時効)

1 概要

①消滅時効期間の統一と単純化

②不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

③生命・身体侵害の損害賠償請求権の消滅時効

④時効の完成猶予・更新

 

 

2 内容

①消滅時効期間の統一と単純化(改正116条1項)

 時効期間は❶権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年、❷権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年という二重の消滅時効期間に統一されます。

 職業別の短期消滅時効(現170条以下)と商事消滅時効(商法522条)は削除されます。 

 

②不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(改正724条2号)

 現724条後段の20年の期間制限の法的性質は争いがあります。具体的には消滅時効と考える見解と除斥期間と考える見解です。

 この点、改正により同20年の期間制限は消滅時効であることが明記されました(改正724条2号)。

 

③生命・身体侵害の損害賠償請求権の消滅時効

 生命・身体の侵害に対する侵害があった場合、債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権はともに❶客観的起算点から20年、❷主観的起算点から5年と長期の時効期間となります。

 

 改正法の時効期間(原則)を整理すると、、

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  この時効期間が、生命・身体侵害の場合は以下のようになります。

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④時効の完成猶予・更新

 ・用語の変更

 時効障害制度の用語が「中断」→「更新」、「停止」→「完成猶予」と変更になります。

 時効の「中断」とは、それまで進行した時効期間が解消され、その時点から新たな時効期間が開始する制度です。この中断という表現は、時効の進行が一時的に停止しその後途中から再開されるという誤解を招きやすいという指摘がありました。そこで、従来の「中断」、「停止」という用語の表現が変更されることになりました。

 

・完成猶予事由と更新事由

 中断と停止の表現は改正により変更されました。しかし、その内容自体については変更はありません。もっとも、完成猶予と更新事由の考え方は「裁判上の催告」に関する判例法理が取り込まれ、以下のようになります。

 

更新事由

→従前の時効期間の進行が確定的に解消され新たな時効期間が進行を始める時点に示すべき事由

完成猶予事由

→❶その更新事由にかかる手続きの進行中および❷その手続が更新事由を構成せずに終了した場合にはその終了時点から6ヶ月を経過するまでは時効の完成が猶予される

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 *現行法158条から161条で停止事由(改正法では完成猶予事由)とされていたものは改正法においても基本的には従前の内容のまま完成猶予事由と規定されていますので、ここでは割愛します。

 

 

民法改正3(代理行為)

1 概要

①復代理人を選任した任意代理人の責任(現105条参照) 

②代理権濫用の明文化(改正107条)

③無権代理人の責任(改正117条2項2号)

④その他

 ・代理人の行為能力(改正102条)

 ・表見代理規定の重畳適用を認める判例法理の明文化(改正109条2項、112条2項)

 

*改正があった全ての箇所に言及しているわけではありませんのでご注意ください。

 

 

2 内容

①復代理人を選任した任意代理人の責任(現105条参照)

 現105条は復代理人を選任した任意代理人の責任を軽減しています。しかし、復代理人を選任すると代理人の責任が軽減されることに妥当性はありません。

 そこで改正法では現105条が削除されます。ですから、復代理人を選任した任意代理人の責任の問題は債務不履行一般のルールに従って処理されることになります。

 

②代理権濫用の明文化(改正107条)

 現行法には代理人による代理権濫用があった場合について定めた規定がありません。代理権の濫用があった場合の処理について、判例は93条ただし書を類推適用して当該代理行為の効果を否定するとしています。この判例は受験生ならみなさんご存知だとおもいます。この判例法理が改正によって明文化されました。

 

③無権代理人の責任(改正117条2項2号ただし書)

  現行法の下では、無権代理の相手方は当該取引が無権代理であることについて過失があれば無権代理人に対して責任追及をすることができません。(現117条2項)。これは無権代理人に無過失責任を負わせる以上、相手方にも無過失を要求するという趣旨です。

 しかし、無権代理人が自らに代理権がないことを知っていた場合にまで相手方の無過失を要求すべきではないという批判がありました。

 そこで、改正により、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合には相手方に過失があっても無権代理人の責任が認められることになります(改正117条2項2号ただし書)

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④その他

 ・代理人の行為能力(改正102条ただし書)

 現102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない」と定めています。ですから、未成年の親権者(法定代理人)が被保佐人であっても親権の行使を取り消すことができません。これでは未成年の保護という制限行為能力制度の目的が達成できません。

 そこで、改正102条ただし書は上のような場合には、法定代理人である制限行為能力者がした行為を取り消すことができると定めています。

 

 ・表見代理規定の重畳適用を認める判例法理の明文化(改正109条2項、112条2項)

  条文を参照。

民法改正2(法律行為)

1 概要 

①「意思能力」規定の創設(改正3条の2)

② 錯誤法

 ・「動機の錯誤」規定の創設(改正95条1項2号、2項)

 ・錯誤の効果が「無効」から「取消」になる(改正95条1項)

③ 意思表示の効力が否定される場合の第三者保護(虚偽表示以外)

④ 契約の効力が否定された場合の清算ルールの明文化(改正121条の2)

⑤意思表示の効力発生時期(改正97条)

*改正があった全ての箇所に言及しているわけではありませんのでご注意ください。

 

2 内容

①「意思能力」規定の創設(改正3条の2)

   「意思表示をした時」に「意思能力」を有しなかったときは、その法律行為は「無効」となります(改正3条の2)。

 

 ポイントは判断の基準時が「意思表示をした時」となること、効果が「無効」となることです。

 「意思能力」の定義規定が置かれることは見送られましたので、「意思能力」の解釈はいまだ問題となります。この解釈は大きくわけて以下2つの見解があります。

 ❶「意思能力」とは事理弁識能力である。

 ❷「意思能力」とはその法律行為をすることの意味を理解する能力である。

 

 

 ② 錯誤法

・「動機の錯誤」規定の創設(改正95条1項2号、2項)

  動機の錯誤に関する判例法理が明文化されました。要件は以下のとおりです。

  ❶「表意者が法律行為の基礎として事情(=動機)」に錯誤がある

       ❷ 動機の錯誤が「重要」である

       ❸ 動機が「法律行為の基礎とされていることが表示され」ている

 

・錯誤の効果が「無効」から「取消」になる(改正95条1項)

 現行法は錯誤の効果を「無効」と定めているが、改正法では「取消し」と定めます。もっとも、現行法の下で判例は「無効」を相対的無効と解釈していましたから、同改正は今までの判例を追認するものです。

 

 

③ 意思表示の効力が否定される場合の第三者保護(虚偽表示以外)

・心裡留保

 判例法理を明文化して、心裡留保による意思表示の無効は「善意」の第三者に対抗することができないと規定されます(改正93条2項)。

 

・錯誤と詐欺

 錯誤と詐欺による意思表示の無効は「善意」かつ「過失がない」第三者には対抗することができないと規定されます(改正95条4項、96条3項)。

 同改正は、現行法の下で(虚偽表示と比べて)比較的帰責性が小さい表意者の犠牲のもとで第三者が保護されるためには善意では足りず無過失まで要求すべきであるという議論が取り入れられたものです。

 

・虚偽表示 

 他方、錯誤や詐欺と比べて表意者の帰責性が大きい虚偽表示では、第三者は「善意」であれば保護されるとする現行法が維持されます。

 

 

④ 契約の効力が否定された場合の清算ルールの明文化(改正121条の2)

  現行法の下では、契約関係を清算する場合の規定がなかったため、不当利得で処理されていました。改正法では、契約関係の清算として、給付を受けた者は「相手方を原状に復させる義務を負う」ことになります。

 

 

⑤意思表示の効力発生時期(改正97条)

 解説は割愛